カンボジア陸連は猫ひろしのカンボジア居住歴を偽ったか?


クメール陸連が国際陸連に対し
猫ひろしは2009年からカンボジアに居住していた」
と主張したとの日本国内報道に接し、カンボジアが国として猫ひろしのために嘘をついてやったという理解がネット上の一部にある。


このことはささいなようでいて、カンボジア側の今回の猫ひろし五輪出場権をめぐる問題に対する姿勢をとらえるうえで決定的な違いであるから、煩瑣をいとわず誤解を解いておきたい。


まず、今回の猫ひろし五輪却下報道について日本の多くの報道の事実上底本となっているのはThe Phnom Penh Postの英文記事である。記事中、クメール陸連(KAAF)のこの主張のくだりには「sporadically」という見逃せない語が入っている。
http://www.phnompenhpost.com/index.php/2012050856037/Sport/olympics-no-go-for-neko.html

Documents sent by the KAAF indicated Neko had lived here sporadically since 2009.

つまり猫ひろしカンボジアに2009年から「散発的に」「ときたま」滞在していた、とクメール陸連は主張したというのだ。これはお役所文章として実態を正確に反映しようとの意図が現れていると私は感じる。つまり、それならまあ、数日ずつのゲストハウス滞在という実態に対して、ギリギリ嘘にはならない。
http://www.youtube.com/user/bokuie

ねこひろしさんに会いました!!(*^_^*)
今日からここのゲストハウスに滞在するそうです。


ところが、日本語記事ではsporadicallyが抜かれているので嘘になってしまう。
http://www.nikkei.com/sports/news/article/g=96958A9C93819695E2EAE2E6868DE2EAE2E7E0E2E3E09180EAE2E2E2;da=96958A88889DE2E0E3EAEAE5E6E2E0E3E3E0E0E2E2EBE2E2E2E2E2E2

共同通信
国際陸連の照会に対し、カンボジア側は猫さんが「2009年からカンボジアに住み、ビジネスをしている」などと主張したが受け入れられなかった。


http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye5024734.html

カンボジア側は「猫さんは、国籍を取得する前からカンボジアでビジネスを行うなどしていて、オリンピック出場の資格はある」と主張していましたが、認められなかった格好です。

しかも今回の却下の理由の一つが、猫ひろしカンボジアに継続して居住した形跡がないことなのである。日本側の報道を信じるならば、まるでカンボジアが嘘をついてそれを国際陸連が真っ向から否定した格好になってしまう。
http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/byokan/2012/05/post-811.html

国際オリンピック競技委員会は、猫ひろしさんが一定期間カンボジアに定住していた形跡が見当たらないことなどを理由に出場に値しないと判断したとみられる。

うがった見方をするならば、まるで日本のマスコミはこの期に及んでもまだ、
カンボジア猫ひろしのために嘘をついてくれた」
カンボジア猫ひろしに加担する姿勢を改めなかった」
と記事を作りたいがごとくだ。


つまり
カンボジア猫ひろしとどこまでも共犯であった」
と言いたいがごとくである。


これが意図的か、無意識か、単なる言葉に対する注意不足なのかはわからない。
だが、読者に与える印象の違いは非常に大きい。


カンボジアが「猫ひろしはたまにカンボジアに来る」と素直に国際陸連に報告したという記事であれば、
カンボジアは意外と素直だな。結局、別にどうしても猫ひろしじゃなくてもよかったわけか。ま、そりゃそうだよな。こんだけ反対が盛り上がるとは思ってなかっただろうし…。カンボジア人選手のほうがタイムもいいわけだし…」
という印象を読者は受けるだろう。


ところが日本で報じられているように、
カンボジアが「猫ひろしカンボジアに住んでいました」と国際陸連に対して主張したという記事を読んだ読者は、
「おいおい今になってまだ国が嘘をついちゃうのかよ。そこまで猫ひろしとズブズブなのかよ。一蓮托生かよバカだな…」
というやれやれな印象を持ってしまうだろう。


私が現地で活動をしていて感じる実感は(おそらくほかの、真に活動をしている方々も同様と思うが)、
カンボジアの役人は、そこまですぐバレる嘘をこの期に及んでついちゃうほど、アホではない」
ということだ。彼らはバランス感覚にめっぽうすぐれているのだ。彼らはそれで食ってきているのだから。


まあ、今回の件の仕掛け人も見たところまさか
「あそこまでしてやったのに、なんだよカンボジア気を利かせろよ!」
とウェットな見方をするようなお人好しではないだろうが…。
http://www.expat-advisory.com/articles/southeast-asia/cambodia/nocc-signs-partnership-cambodia-dream-phnom-penh-international-half

Cambodia Dream Director Yuko Watanabe Exchanges the Signed MOU with NOCC Secretary General, Mr Vath Chamroeun

海外のパートナーやスタッフに気を利かせてほしければ、方法はただひとつ、それを彼らの事業にすることだ(ドヤァ)。
猫ひろしビジネスは、結局のところ、カンボジアの事業ではなかった。
そのことがこの「sporadically」の一語にたくまず集約されており、そしてなぜかこの一語こそがまさに日本での報道には現れないものなのである。


なんか、不思議ですよね…。