酒ぐらい仕事抜きで飲ましてくれよ

 ダナンの日本食屋「ふるさと」には、日本のCDが2枚しかなく、無限ループ状態となっている。
 一枚はテレサテン詰め合わせ。異国で聴くとオジサンにはたまらないネ!
 もう一枚は、もっと「最近」の歌謡曲つめあわせで、1曲目がのりピーの『碧いうさぎ』。タイムリーだネ! シメに森山直太朗の『さくら』が入っている。


 ちょうど、英語でガヤガヤやってる白人グループが隣に座ってたときに『さくら』がかかったんで、おもわず、「日本人と桜」について店員にベトナム語で語ってしまった。よっぱらいか俺は。あ、よっぱらいだった。
「日本人は、飛行機で、潜水艦で、白兵で、アメリカ人に馬鹿みたいに特攻していって、玉砕しまくったんだ。桜の命はわずか数日、でも死んだあと、桜の咲く道の上でまたソイツに会えるんだぜ。日本人はだから桜が好きなんだ」
 理解できネーヨ!
 となりの白人たちは、残念ながら誰もベトナム語はわからないみたいで、ツッコミを入れては来なかった。というか、仮にわかっててもかかわりたくネーヨ! すんません。
ベトナム人アメリカ人に山ほど殺されたけど、でもベトナムは最後アメリカにthắng lợiしたよね」
と言ったら、ベトナム人のその店員は瞬間、ものすごい複雑な表情を見せた。そしてめずらしくちょっと長めに何か僕に言ってくれたが、残念ながらサッパリ聞き取れなかった。


 蘇州で行ったカラオケで、客先の若者がこの『さくら』がなかなか上手かった。
 かなり酒入ってた僕はボロボロ泣いてしまったが、客先のオッサンたちは誰も見て見ぬふりだった。
 ヤケになって『金太の大冒険』をマシンに突っ込んでやったら、客先の専務が立ち上がってノリノリで絶唱し、ウケがよかった。わからんものだ。


 飲むなら、気のおける知人より、いっそどこの誰とも知れぬアメリカ人と飲みたい。
 気のおけない友人と飲まない酒なら、一人で飲んだほうがマシだ。