カンボジアというキャバクラ

 人は社会的動物で、誰もが自分の話に人が耳を傾けてほしい、アンタはすごいと言ってもらいたいと願っているが、悲しいかな、その夢は万人に叶うわけではない。
 だが悲観するのはまだ早い。ちょっとお金を払うだけでそれが叶う場所があるのだ。日本国内であればそれは「キャバクラ」と呼ばれるスポットであり、日本国外にはカンボジアという国がおあつらえむきに用意されている。


 カンボジアには、カネを払って俺の話を聴いてほしい輩が外国からやってきてあふれかえっている。「わ〜、スゴーイ!!」と言ってもらいたい輩がひきもきらず訪れる。底へ行けば、どんな夢も、叶うというよ…その国の名はカンボジア


 ありとあらゆる宗教がある。研修に名を借りた宗教まがいもある。貧しい人を食い物で釣って集会場所に来させ、自分らの教義を吹き込む。この学校にくればお金あげます、なんてのまである。
 日本からオヤジがやってきて一席ぶつ。心得たもので、「わースゴーイ!!(目キラキラ)」とみんな拍手してくれる。


 「ほんとはすごいあなた」を演出してくれるサービスもある。飛行機乗ってブランコを作りに来る。炊き出しをやる。貧しい子供らが寄ってきて、チヤホヤしてくれる。
 子供の役に立ちたいのか、それとも自分が癒されたいのか、ハッキリするべきだと思う。
 いいよ子供と遊ぶのも。むかし大学にいたころ、「子供と遊ぶサークル」というのがいくつかあった。このご時世に今もあの手があるかは知らないが、そういった需要はたしかにあるのだろう。
 でもそうならそうと公言したらいい。子供の役には立ってないけど、僕がこれで癒されるからいいんです、と。子供たちありがとうございますと言えばいいじゃない。なんで上から目線なのよ。子供たちのために来たとか言って。アンタが子供たちに救われてるじゃないか。


 ほんとに子供たちのためになりたいなら、自分が飛行機代かけて、作ったこともないブランコ作って子供を危険にさらすより、地元の業者にカネ送って作らせたほうがナンボかいい。たぶん同じ金額で何倍もの数のブランコ(品質基準も満たした)が作れる。ブランコ業者(?)も潤う。つまり、カンボジア経済振興にもなる。


 炊き出しは、ほんとシャレにならないと思っている。日本で同じことやってみろ、親がすっとんでくるから。誰が見ず知らずの人間が作ったえたいの知れない料理子供に食わせるのをほっておける人の親があるものか。ましてカンボジアはすぐ食べ物の傷む暑い国で、衛生には皆日本人以上に細心の気を遣っている。油断が命取りになる。そこへ日本人がほえほえやってきて、食べたことなくてかわいそうだからとか言いつつ国籍不明の俺様料理をここぞとばかりに披露し(普通にカンボジア料理食わせてくれよ…カンボジアの気候ではカンボジア料理が一番美味いんだよ、冷房効いた部屋で暮らしてないかぎりは)、あまつさえMOTTAINAI精神なんか発揮して朝つくったメシの残りを昼また食わせようとしたりする。殺す気か! 相手貧しいから少々腐ってても捨てるより喜ぶだろってか?
 頼むから日本でやってくれ!


 放置自転車を高い関税払ってカンボジアへ輸出するNGOもあるときく。カネ送ってカンボジアで買えばいいのに。もう日本の放置自転車は山ほどカンボジアで出回っている。それを買って贈ればいい。たぶん何十倍の自転車が贈れる。同じ質のものが。出どころは一緒なんですから。


 ほんとカンボジアはこの手の人たちに人気がある。テレビでこの文脈で取り上げられることも跡を絶たない。
 カンボジア人はうまいんだろうと思う。天性のキャバ嬢なのか、それとも充分に訓練された悲しい育ちのなせるわざなのか。